私がNICU(新生児集中治療室)に勤務していた時、入院している男の子の赤ちゃんに多かったのが健康の「健」の字がつくお名前でした。
中でも、「健太くん」「健介(輔)くん」「健くん」はとても多く、親御さんの「元気で健康に育ってほしい✨」という強い想いが伝わってきました。
前回はそんな「健ちゃん」のお話を書きましたが、今回もNICUに入院してきた
″もう1人の健ちゃん″
のお話です(*^_^*)
その日も救急隊から急な入院要請がありました。
「公園の公衆トイレで出産された男児の受け入れをお願いします!」
公衆トイレΣ(゚Д゚)!?
衝撃的な要請内容でしたが、詳細はわからないままとりあえず受け入れの準備に入ります。
入院準備をしながら、ドクターや他の看護師とも
「急に産気づいて、間に合わずにトイレで産んじゃったのかなー💦」
などと話しながら、到着を待ちました。
そうして数十分後、タオルと保温用のアルミシートにくるまれた男の赤ちゃんが運ばれてきました。
出産後、便器の中に落ちてしまったΣ(´∀`;)⁈とのことで、急いで体を綺麗に洗い、低体温にならないようすぐに保育器の中で保温を開始しました。
幸い、入院時の全身状態は良く、元気に泣き声をあげていましたが、なにせ公衆トイレの便器という決して衛生的ではない場所に生まれてしまったこの赤ちゃん。
ドクターも様々な感染症のリスクがあると考え、すぐに抗生剤などの投与を開始しました。
入院の翌日からはミルクもごくごく飲み始め、保育器の中で元気に泣き声をあげる姿が見られました✨
そしてその後も、全身状態の管理と毎日の抗生剤投与の甲斐もあり、その男の子は感染症を発症することなく元気に経過しました👶
一方、私たち医療者が気になったのはお母さんの様子です。
入院後にわかったことですが、この時30代後半だったお母さんは未婚で、妊娠に気付かないまま過ごしている内にお腹が大きくなり、妊婦健診にも行かないまま急に陣痛が来てしまって、公衆トイレに駆け込んで出産した、というお話でした💦
お母さんは、赤ちゃんが入院してから2~3日後に初めて面会にいらっしゃいました。
面会中、お母さんは泣いている赤ちゃんをおそるおそるのぞき込み、看護師が「触ってあげてください」と促すとほんの少しだけ手に触れましたが、赤ちゃんの状態や様子をお伝えしても、無表情で何となくぼんやりとした表情です。
私たち看護師は、そんなお母さんの様子を見て、″まだ出産したという現実を、上手く受け入れられないのかな・・・″と少し心配になりました(>_<)
実際NICUには、突然の出産や自分の子どもが入院したことをすぐには受け入れられず、赤ちゃんに対してなかなか愛情を持てない親御さんが少なくないのです。
しかしそんな私達の心配をよそに、その後お母さんは毎日面会に来てくれるようなりました✨
産科で絞った母乳を赤ちゃんに飲ませてもらうと、ぎこちない手つきではありましたが、はにかんだような幸せそうな表情を浮かべています🌸
お母さんがだんだん、本当に「お母さん」になっていく過程が見えた気がしました。
そうして、赤ちゃんは「健ちゃん」と名付けられました👶
「健ちゃん」は、トイレで産まれた、という伝説(笑)を持っているのが信じられないくらい、色白でまつ毛の長いとってもキレイな赤ちゃんでした✨
お母さんは面会に来るごとに健ちゃんへの愛情がどんどん強くなっていったようで、退院の日は可愛くて可愛くて仕方がない、といった様子で健ちゃんを抱っこし、おばあちゃんと一緒にご自宅に帰られていきました。
退院後、健ちゃんとお母さんがどのように過ごされたのかはわかりません。
未婚で高齢出産だったことも考えると、もしかしたらその後の子育てでご苦労されたかもしれません。
ただ、健ちゃんを大切そうに本当に愛おしそうに抱っこして退院されたお母さんの姿は愛情に満ち溢れていました✨
お母さんにとって予期せぬ妊娠で、しかも大変なハプニングに見舞われた出産だったかもしれませんが、私達看護師にとっては、親子の愛情が結ばれる瞬間が見えたNICUでの大切な思い出の一つになりました。
どうか今でも健ちゃんとお母さんのご家族が、元気で幸せに過ごされていますように、
心からお祈りしています✨
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